アリストテレスは「重いものほど早く地面に落ちるものだ」と説明したが,ガリレオはこの説に反対し,「空気などの抵抗がなければ,物体は重さに関係なく同じ速さで落下する」と主張した。この説を証明するために,ピサの斜塔から大きさの違う物体を落として,同時に着地することを確認したというエピソードがいろいろな本に書かれている一方で,このエピソードはガリレオの弟子の創作だという説もある。

岩波書店から邦訳が出版されているガリレオの著書「新科学対話(上)」を読むと,物理実験に関するガリレオのマニアっぷりが伝わってきて面白い。ガリレオはピサ大学で学び,さらに教鞭をとっていた時代もあるので,実験マニアのガリレオが近所のピサの斜塔からいろいろな物体を落として落下時間を計測する実験(人に当たるとあぶないから真似しないように)をしてしたというのは本当じゃないかと想像するが,この本を読むと,その実験で確認した結果は「(空気中では)重いものほど早く落ちる」ということではないかと思われる。

その証拠に,密度の異なる物体の落下速度が異なる原因として,ガリレオは浮力と粘性摩擦に注目して議論しており(厳密には,浮力と粘性摩擦の概念がやや混同されて書かれているが,ニュートン以前の知識に基づく推論としては非常に緻密で素晴らしい), 空気中での物体の浮力の議論のために空気の密度の測定方法も提案し,現在知られている値に近い値を求めている。 その結果に基づいて,風船のように軽いもの(ガリレオの時代には風船はなかったので,代わりに(おそらく牛の)膀胱を使って作った風船のようなもの)や,鉛や黒檀の密度の比較を行い,風船は鉛や黒檀に比べて3/4程度の速度で落ちること,また,黒檀は鉛よりも若干ではあるが落下速度が遅いことを定量的に解説し,その見積もりが計測結果と近いと説明している。

そして,真空中での物体の落下速度が,物体の大きさや密度によらないことは,以下のようにいろいろな方法で説明している。

  1. 思考実験: 重いものほどゆっくり落ちるとする。ならば軽いゴマ粒を重い石にくっつければ,ゴマ粒は石の落下速度を弱めると考えられる。しかし,ゴマ粒と石の合計の重さは大きくなるから,ゴマ粒のくっついた石の落下速度は早くならないといけないので,矛盾が生じる。すなわち,落下速度は重さによらないと考えるのが良い。
  2. 実験証拠1: 水中より空気中のほうが,比重の異なる物体の落下速度の差は小さい。この事実は,落下速度の差が媒体(水か空気か)の違いによるることを示しており,媒体がない真空中では落下速度の差がなくなるはずである。
  3. 実験証拠2: 糸の先に軽いコルクや重い鉛を結びつけた振り子を観察すると,どちらも同じ周期で振動する。空気による抵抗が小さいゆっくりした運動でこのような結果が得られることは,落下速度は重さによらないことを意味する。
  4. 実験証拠3: 落下物体は媒体から抵抗を受ける。もし,周囲の媒体に対する物体の密度が10倍なら,落下速度は1/10だけ真空中に比べて小さくなり,物体の密度が媒体の100倍なら,落下速度は1/100だけ小さくなる。このような仮定に基づくと,さまざまな物体の落下速度を説明でき,また,真空中での落下速度はどのような物体も同じということになる。

ガリレオは,アリストテレスの様々な説に対して多くの反論をしているが,「新科学対話(上)」には「私の感服するアリストテレス — 殊に彼は,幾分でも考察に値すると思った問題は如何なるものでも論議することを欠かさなかったのですから…」という下りもあるので,非常に尊敬していたのではと思われる。 実際,アリストテレスはガリレオよりも2,000年も前の人物だから,議論するに値する莫大な著書(Wikipedia情報だと550巻くらいの著書があったとか…)を残しているというだけでもすごい。

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