研究紹介

学習理論

重要な情報を抽出し,適切な行動・運動を決定する学習理論

現在インターネット上には莫大な情報があり,その中から目的に応じた意味のある情報を取り出すデータサイエンスの研究が世界中で活発に行われています。 脳も,全身にある莫大な数の感覚センサから送られてくる情報の中から重要な情報を時々刻々と判断し,適切な行動や運動を学習・実行しています。 このような脳の情報処理プロセスを解明する理論的研究は,現在のデータサイエンスの発展に大きく貢献してきました。 本研究室では,脳が重要な情報を発見する学習プロセスに着目した理論的研究を推進しています。

スキルを発見する神経回路モデル

スポーツや楽器の演奏などの様々な運動学習をするとき,脳は全身からの様々な感覚刺激の中から,目的とする運動を遂行するために重要な情報を巧みに抽出します。 このような運動スキルの獲得を行える神経回路モデルの構築をすすめています。

基本的な運動パターンを生成する神経回路モデル

下等動物の歩行や遊泳などの基本的な運動パターンは、脊髄内のCPG(central pattern generator)と呼ばれる神経振動子結合系と身体の運動が互いに影響を及ぼし合うことで実現されていることが,生理学実験によって示唆されています。 このような神経振動子結合系の学習理論や,身体運動とCPGの相互作用により運動を学習する学習モデルをこれまでに提案してきました。

階層的運動制御モデル

ヒトなど脳が発達した動物では,大脳,小脳,脊髄等の様々な部位の神経系が身体を制御する階層的多重制御構造になっています。 このように様々な神経系がどのように協調して、望ましい運動パターンを学習・発生しているか, このような多重制御のメリットは何かについて検討をすすめてきました。

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スキルサイエンス

20世紀はじめにモーションキャプチャシステムを開発し, バイオメカニクス分野の基礎を築いたロシアの生理学者Bernsteinは,熟練した鍛冶屋の運動を計測して面白いことを発見しました。 熟練工の運動は機械のように再現性の高い運動を繰り返すことができるかと思いきや,鎚を打つたびに腕の軌道は異なっており,にも関わらず鎚先は狙いを定めた位置に吸い込まれるように動いていくことに気づいたのです。

そこで,Bernsteinは,(1) 我々の神経系は遂行タスクを達成するために重要な部分には注意を払っているが,それ以外の点にはあまりちゅういをはらっておらず,(2) ヒトの巧みさはこのように多様な方法でタスクを遂行できる点にあると考えました。

ヒトは無意識のうちに様々な運動学習を行っており,その内容を意識したり言語化したりすることが難しいことが,運動スキルの伝達のための大きな問題ですが,Bernsteinの考えが正しいとすると,様々な運動に熟練したヒトの運動のばらつきの様子を観察することで,これまで気づけなかった運動のコツ(暗黙知)を探り出せる可能性があります。 そこで,ばらつきの分布を解析する手法であるUncontrolled manifold (UCM) 解析によって,運動のコツを探る研究をすすめています。 これまでは歩行運動を主に扱ってきましたが,スポーツや楽器演奏等の解析もしていく予定です。

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運動計画

ウォーク・トロット・ギャロップの謎

馬や猫、ナナフシ、ゴキブリなど、多くの多足歩行動物は、移動速度によって歩行パターンを変化させます。 この歩行パターンの変化が、移動に要するエネルギー消費とどのような関係にあるかを、理論的に考察してきました。 具体的には,ロボット工学の手法を利用して,最もエネルギー消費を抑える足の振り幅,足の運動周期等を数値計算により求め, その結果を実際の歩行パターンの特徴と比較します.

その結果,多足歩行動物の歩行運動はエネルギー消費を最小に抑える合理的な運動である ことを示唆する結果を得てきました.

腕を動かすための運動計画

目の前にあるコップをつかむために手を伸ばすとき,腕の動かす経路や速度の選び方は無数にあります。 先行研究では,腕の動きのなめらかさに注目したジャーク最小仮説,トルク変化最小仮説や,終端での手先のぶれを抑えることに注目した終点分散最小仮説等が有力な候補として議論されています。 私たちは,腕の動かし方についても歩行の場合と同様に消費エネルギー最小仮説で説明できると考え,この仮説の妥当性を説明するための理論的研究を行っています。

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そのほか

楽曲解析

ヒトが感動するような曲にはどのような特徴が潜んでいるかを解明したいなと思い,伝統的な作曲理論とはちょっと違う視点での解析を試みています。

表現の科学

ダンスなどの身体表現によって,ヒトは様々な感情を表現したり読み取ったりすることができます。運動のどのような要素がこの感情伝達につながっているかについての検討を試みています。

利他行動の進化

ダーウィンの進化論によると,他個体よりもより多くの餌を取り,より多くの子孫を残すことができるような生物が,その環境で生き残ることになります。 しかし,このように考えると他個体に利益を与えるような利他行動の存在の説明が難しくなり,この点についての議論はダーウィン以降,現在も続いています。 そこで,本研究室ではシミュレーション実験等によって,利他行動が生存に有利になるのはどのようなときかを検討しています。

その他

研究室のホームページにも紹介があります。