「モデル」の話

先日のblogに載せたSanta Fe Insitute力学系のオンラインコースの講義では「数理モデル」の役割の説明にも時間を割いていたが,そこで以下の記事を紹介していた。

「モデル」の意味をヒトに伝えるのが難しく感じることがあるので要約を紹介。

筆者はモデルの役割には,よく取り上げられる prediction (予測) 以外に 少なくとも16の役割があると述べて以下を列挙している。

1. Explain (very distinct from predict)

説明する(予測とは違う)

例)

  • プレートニクス説は地震が起こる理由を説明(予測はしない)
  • 電磁気学は稲妻おきる理由を説明(予測はしない)
  • 進化論は種の分化を説明(予測はしない)

2. Guide data collection

データ収集の指針を作る

  • よくある考え方:「科学ではまずデータを収集し,次にそれを説明するモデルを作る」
  • 実際には理論がしばしばデータ収集に先行
    • Maxwellの電磁場に関する理論からラジオ波の存在が予測され,後に実証
    • 一般相対性理論は重力による光の屈折を予測して後に実証
  • 理論がなければ,このような観測実験すら行われなかった可能性もある

3. Illuminate core dynamics

ダイナミクスの根幹を明らかにする

  • シンプルで美しいモデルは,なんらかの抽象化(理想化)により作られる。したがって優れたモデルはいずれも「不正確」であるが,対象に関する本質的な性質を表現する。
  • 「芸術は真実を見せるための嘘である」by Picasso
  • 「全てのモデルは間違っている。しかし,いくつかは有用だ。」by George Box

4. Suggest dynamical analogies

共通のダイナミクスを明らかにする

無関係に見える現象が,同じ形式の数理モデルで表現されることがある。

  • クーロン力と重力
  • 温度とエントロピーの関係と,賃金と賃貸料の関係

5. Discover new questions

新しい謎の発見につながる

  • 美しい「モデル」は人を感動させ,好奇心に駆り立て,新しい疑問を生み出す。
  • 試験は誰かの作った問題を解けるかを確認するだけだが,もっと大事なのは,新しい疑問を生み出す能力をもつこと。新しい疑問は新しい発見を生む。

6. Promote a scientific habit of mind

心にサイエンスの芽を育む

  • 「モデルを作ること」の最も重要な役割は,「心の中にサイエンスの芽を育むこと」と考える。
  • サイエンスに関する知識に絶対真実といえるものは無い。(訳注: サイエンスに関するなんらかの説が100%正しいことを証明することは,ほとんどの場合不可能。通常,より尤もらしい説を妥当なものと判断する)。常に,なんらかの権威的な考えを信じるのではなく,証拠に基づいて判断するべき。

7. …

ここからは各項目の説明が原文にないので,表題のみ列挙する。

  1. Bound (bracket) outcomes to plausible ranges
  2. Illuminate core uncertainties
  3. Offer crisis options in near-real time
  4. Demonstrate tradeoffs / suggest efficiencies
  5. Challenge the robustness of prevailing theory through perturbations
  6. Expose prevailing wisdom as incompatible with available data
  7. Train practitioners
  8. Discipline the policy dialogue
  9. Educate the general public
  10. Reveal the apparently simple (complex) to be complex (simple)