ロバートジョンソンの歌の研究
たまたま読んだ「ロバートジョンの歌の研究」というページが面白かったので思い浮かんだことを少々殴り書き。 ジョンソンの歌のピッチを細かく分析したら,ルート音(音階のドの音)の音程はバッチリはまっている一方で,他の音は,平均律(ピアノの調律に用いられる音程)からずれて,かなり自由な,でもコントロールされた音程で歌っていたという話。
半音づつ12回音が上がると周波数は2倍になる。これがいわゆるオクターブの音程比。 ピアノの調律で使われる平均律の音程では,この半音異なる音(隣り合う鍵盤(黒鍵含む)の音)の周波数比を全て同じに取るので,半音だけ上の音の周波数は$2^{\frac{1}{12}}=1.0335\cdots$倍と決まる。 このような無理数の音程比を守って正確に歌うのはヒトにとっては無理難題で,大抵は周波数比が単純な整数比になる純正律に近くなる。 例えば,ソの音の周波数は純正律ではドの音の3/2倍で,この音程だとドとソは美しくハモるが,平均律では$2^{\frac{7}{12}}=1.498\cdots$倍となるためにピアノだと少し濁る。 ただし,歌やバイオリン等のうまい人は,美しくハモる音程感を身につけたうえで,さらに音程をあえて少しずらすことで感情表現を行う。もっとも基準の音を正確にキメることで初めてズレを利用した多彩な表現が生まれる。説明するのは簡単でも,こういったことを自然にできる人は プロでもそんなに多くはない。
それはともかく,上記のリンク先の文章には「言語道断。ブルースには音楽理論的な話は不要。苦しみ悲しみの中で魂として生み出される黒人達の心の音…それ以外論ずる必要なし」とコメントされたエピソードがあった。学生のころ,生物現象の数理的解析をしたい云々の話を生物学専攻の人としていた時,よく似たことを言われたなと思い出した。
直感的理解が得意な人には理屈は不要なのだろうが,私のように勘の悪い人間には定量的分析も多少は役に立つように思うし(藁にでもすがりたいという方が近いかもしれないが),プロの音楽家やスポーツ選手でも驚くくらい分析的なアプローチを取る人は多い。
さらに読み進めたところで「これをやると「きっと、未来に、なにかがオレを待っている」と思えるのである。ただの第六感なのだが。」という文に到達。 自然科学はしばしば客観性が強調されるが,何に注目して,それにどうアプローチをするかという点については,むしろこの第六感的なドキドキ感が非常に重要。 卒論でも修論でも,このドキドキ感を感じれる人は面白いことをする。 一方で,ドキドキ感もなく,ただ作業をこなしただけに見える研究の話を聞くと,なんだか虚しい気分がする。 ただし,このドキドキ感は棚ぼた式に降ってくるものではない。 むしろ,ドキドキしたい,もしくはドキドキがないと意味がないと信じている人が必死に考えて初めて発見できるドキドキの方が素晴らしいことが多い。 研究でも芸術でも製品開発でもプロにとって一番大事な仕事はここを必死に考えること。